この指導者で大丈夫?指導者を変えた方がいい時と様子見した方がいい時
最近、いくつか同じような例がありました。
長く楽器なり歌なり、音楽の学びを続けてきたのに、びっくりするほど積み上がっていない方。
というか、はっきり言って「ヘタ」以外の何者でもない!!
これはどういうことでしょうか。
全く間違った方向のレッスンを受けてきたとしか考えられません。
ある先生がおっしゃっていました。
「自分一人で練習しないでください。ヘタになります」
まあ、これは極論だとしても、繰り返し繰り返し、間違った方法で間違った方向へ向かって努力しても、行きたい高みにはたどり着けないということ。それは誰にでもわかることですよね。
例えば180度違う方向へ向かって地図もなく進んで行ったとして、果たして目的地に着けるでしょうか?
音楽の場合、全くの独学で楽器が弾けるようになるとか、オペラが歌えるようになるということは、まず有り得ません。フォーム、楽譜の読み取り方、表現の仕方、どれをとっても間違ったやり方が一旦身についてしまうと、修正するにはものすごい時間がかかります。
脳みそは、覚えたことを「なかったことに」はできないのです。さらに上書きして行くしかないのです。最初に正しく覚えれば、苦労なくできるはずのことでも、一度間違って覚えてしまったフォームを修正するには、ものすごい労力が必要なのです。
けれども、ちゃんと指導者についていたのに、その指導が間違っていたとしたら…。恐ろしいことです。
そんな例を、いくつも目にしています。
何十年も歌ってきたのに、声帯の使い方が全くわかっておらず、音程を安定してとることすらできない方。
幼稚園の時からレッスンに通っていたというのに、中学生になっても楽譜が読めず、両手のタイミングを揃えて滑らかなクレッシェンドやディミニエンドをつけることすらできない少年。
1曲を半年もかけてやっと譜読みして、テンポキープもできずにつっかえつっかえしか弾けない5年生。
地道な練習曲は嫌い。好きなクラス合唱の伴奏曲ばかりをフォームが崩れたまま弾き続け、手を壊してドクターストップがかかった中学生。
周りから飛び出さないように、目立たないようにと息漏れ声でしか歌えないので全然響きが飛ばず、音程も取れない合唱。
みんな音楽が好きだからこそ、長く続けてきたというのに、やればやるほど下手になっている!! 本当に気の毒です。
私も初心で入門される方にはこう話します。
「ピアノは難しい楽器で、好きな曲を弾けるようになるには10年かかります。それまでは飽きず諦めず、長い目で見て淡々と努力しましょう」特に親御さんに、そう話します。
先ほど例に挙げた皆さんたちも、指導のされ方に疑問を持ったとしても、「まだ途上なのだ、もう少し様子を見よう」と思って続けてきたに違いありません。あるいは、先生の注意に応えられないのは、自分のやり方が悪いから、また練習時間が足りないからうまくなれないのだと、諦めもあったかもしれません。
でもなんだかおかしい、やっぱりおかしい、どうにかせねば、と切羽詰まって、指導者を変えようと決断されるのです。
そんな生徒さんたちの藁をもすがる思いに応えるには、こちらにもすごいエネルギーが必要です。
そして、初心で習いにこられる生徒さんたちに、正しい方向に進めるような基礎を指導することの責任も改めて痛感します。
指導者を変えた方がいいかな、と思うときは、発表会などを聞きに行くことをおすすめします。基礎力、演奏力、選曲、フォームや弾いている生徒さんたちの表情などから、色々なことがわかります。
同じくらいの年齢で、レッスン年数も同じくらい経ている人が、どんな曲をどのような音や表現で弾いているでしょうか。
テンポキープできて途中でつっかえず、きちんと暗譜して発表できている生徒さんが多い発表会なら、その先生の指導は間違い無いでしょう。
とはいえ、どの生徒さんも、段違いに上手いという教室の場合は、専門の道を目指す方やコンクール重視の指導だったりもするので、逆にプレッシャーになるかもしれません。
けれど、これは絶対に言えるのは、「趣味だから」「楽しくやりたいから」と基礎をいい加減にしてのんびりレッスンでいいということはありません。正しいフォーム、正しい楽譜の理解は、どうしても譲れない部分です。
楽に、故障なく演奏できることは、長く音楽を楽しむために絶対に必要なのです。初見力があれば、勉強や仕事が忙しい中でも趣味として続けることができます。